NDフィルター、ハーフND、ランドスケープCPLの使い方

文・写真: Francesco Gola

イタリア在住のエンジニア・写真家であり、長秒露光で世界中の絶景海景写真を撮り続けているFrancesco Gola氏によるテキストです。彼がおすすめす海景写真で使いたいフィルターを豊富な作例と共に紹介しています。

はじめに

私が風景写真の世界に入り、初めてフィルターを使い始めた頃は、販売されていたフィルターの種類も少なく、品質も思わず首を傾げたくなるようなものばかりでした。当時はまだフィルターを使う人が少なかったのか、高品質と言われていたフィルターの中には、入手まで6ヶ月程待たなければならないという、今までは信じられないような状況だったのを覚えています。

あれから数年が経ち、フィルターの使用が広まるに連れて、今では本当に多くの商品が手に入るようになりましたが、その反面、選択肢が多すぎてどれを買ったらよいかわからない、という問題を抱えるようになったのではないでしょうか。
そんなみなさんの悩みに答えるために、今回は撮影現場で私が主に使用するフィルターを公開したいと思います。

私の機材選びの基本はいつも「良いものを少しだけ」です。これはフィルター選びにも当てはまります。実際、撮影現場にあまりに多くのフィルターを持っていくと、撮影に集中することよりも、フィルターの選択に時間を費やしてしまい、かなり効率が悪くなります。

では、前置きはこれぐらいにして、早速私のカメラバックに入っている機材を紹介していきましょう。

フィルターの種類

ここでは、私が実際によく使うフィルター数種類の解説だけにとどめ、その特徴や使い方を作例と一緒にお話していきます。フィルター全般に関する基本的な解説については、こちらにまとめてありますので、必要に応じて参照ください。

まず、私が使用しているフィルターの種類ですが

  • GND(ハーフND)
  • ND(減光)
  • PL(偏光)

この3種類になります。

レンズ前玉を保護する以外にあまり意味のないUVフィルターは使用しません。撮影中は他のフィルターを使用するため、レンズ保護という目的はそれらのフィルターでも事足ります。どんなに上質なフィルターであっても、不要なフィルターを使う必要はありません。フィルターを装着することで画質の低下を招いたり、ケラレの原因になることは言うまでもありません。

フィルターの形状で言えば、ホルダーに挿入するタイプの角型フィルターを使用しています。ねじ込み式の円形フィルターも優れていて、角型フィルター同様に高品質な商品も発売されています。ですが、円形フィルターには次の大きな2つの制約があります。

  • GND(ハーフND)がない(または種類が限られている)
  • 同時に複数のフィルターと組み合わせて使用するには不向き(状況次第では不可能)

フィルターの素材は、何と言っても光学ガラス製に尽きます。樹脂製は論外、また、“光学ガラス”と謳っているものにも注意が必要です。(ガラス製でも光学ガラスではないものや、また、光学ガラスと表記していても、実際には光学ガラスでないものも多い)お薦めは、撥水加工やIRカットコーティングといった実用的に効果のあるコーティングがされたもの。一方、耐衝撃コーティングは意味がありません。(画質の面ではむしろ逆効果です)

概論はここまでにして、いよいよ本題に入っていきましょう。
(この記事はあくまでも私が個人的に愛用しているフィルターに関する記述であり、絶対的な指標ではないことを書き添えておきます)

GNDフィルター(ハーフND)

ご存知のように、GND(graduated neutral density)は縦長の角型、片側半分が透明で、残り半分には精密なグラデーションで減光膜が付けられたフィルターです。減光部分の濃度は複数の種類があり、それによりレンズに取り込まれる光の量を調整できます。言い換えれば、カメラの持つダイナミックレンジの限界をフィルターで補ってあげることにより、撮影後のレタッチ工程で(異なる露出で撮影した)複数枚の画像を合成する必要もありませんし、個人的には、ブレンディングするよりもフィルターを使用することで、作品がより洗練された質の高い仕上がりになると思います。

私がいつも携帯しているGNDフィルターは3種類のみですが、その理由をこれからお話します。

ハードGND8(0.9)

海景を撮影するのに適しているからか、それとも単に一番最初に買ったフィルターで思い入れがあるからか、は定かではありませんが、このハードGND8は、私が最もよく使うフィルターであることは確かです。ハードGNDは明暗の境目がくっきりしているため、地平線や水平線に光の筋が重なり合う風景の撮影には、まさに最適のフィルターといえるでしょう。

境界部分がはっきりしていると言っても、実はわずかにグラデーションが入っているので、遠くに見える水平線上から岬や岩の先端が突き出ているような場面にも対応できます。

NiSi ハードGND8(0.9)を水平線に重ね撮影した写真です。目の前に広がる見事に焼けた空を露出オーバーにすることなく、前景にも露出がしっかりと合っています。今までの経験から、特に光源が片側から差し込んでくる朝焼けや夕焼けの場面では、この絞り3段分の減光フィルターが最適な選択といえます。

ミディアムGND16 (1.2)

グラデーションの効かせ方にこだわって開発されたミディアムGND、その中でも特にこのGND16を使った時はとても感動しました。(ミディアムGNDに関する詳しい解説はこちら)

グラデーション領域に幅をもたせているお陰で、光の線(海景の場合は水平線)と、そこから突き出た岬や建築物(例えば灯台)などがある構図でも、実に見事な調和が取れます。
もちろんこのフィルターが活躍する場面は海景だけには限らず、丘陵地帯や、山岳風景の撮影にも最適でしょう。

これはNiSiミディアムGND16 (1.2)を使用した作例ですが、風景全体の一体感を損なわず、眼下に広がる山脈と空との露出を合わせることができました。

この作例でGND16(絞り4段分の減光と同等)を選んだ理由は、このミディアムGNDのグラデーションのかかり方にあります。フィルター上部の一番濃度が濃い部分がND16に相当する訳ですが、中央付近のグラデーション領域ではその濃度が徐々に薄れていくため、前述のハードGND8(0.9)に近い濃さになります。微妙な明暗差のバランスをとりたい水平線付近で、ミディアムの緩やかなグラデーションが活きてくる訳です。
このミディアムGNDは、様々なシチュエーションで使えるので、常にカメラバックに収めておきたい1枚です。

ソフトGND4 (0.6)

私が撮影する環境の9割ぐらいは前述の2枚のフィルターで補えるとしても、時々どうしても他のフィルターが必要になる場面に遭遇します。例えば、空の明るさが絞り3段(ND8)の減光では足りないほど強く、そして同時に海面からの反射光も減光が必要になるような場面です。次の作例がまさにそうでした。

この撮影環境では、ミディアムGND16 (1.2) 1枚では空の明るさを抑えるのに足りず、ソフトGND4 (0.6)を重ね付けしました。このソフトグラデーションは、階調が淡く緩やかなため、岩場の影などの暗い部分をアンダーにせずに、海面からの強い反射光を抑えることができます。こうして、露出オーバー気味であった海面も、1回の撮影で被写体全体の露出をバランスよく収めることができました。

NDフィルター

長時間露光撮影は、本当に魅力に溢れたテクニックで、私もよく作品に取り入れる手法です。冒頭でも触れましたが、私が風景写真を撮り始めた頃は、NDフィルターと言えば、ND8とND1000の2種類だけでした。(しかもND1000は、入手するのに3ヶ月から6ヶ月もかかりました)やがて長秒露光撮影をする人が増えるにつれ、フィルターへの需要も高まり、ND64という新しい濃度のフィルターが登場しました。ND8では足りず、ND1000では濃すぎる、という声が多かったのでしょう。こうしてNDフィルターの定番とも言えるND8, ND64, ND1000が普及し、この3種類の濃度があれば、どんな場面にも対応できる、ともてはやされるようになりました。今でもこの3枚を揃えている人は多いと思います。
かく言う私もこの3枚のNDフィルターで長いこと撮影をしてきたのですが、多種多様なフィルターが発売されるようになり、(今ではND2 ~ ND1,000,000という品揃え!)いくつものフィルターを試してきた結果、自分の作品作りに必要な3種類に辿り着きました。それらをこれから紹介します。

ND8

このフィルターは、太陽が沈んだ直後や夜明け直前のわずかな時間帯、いわゆるマジックアワーで露光時間を長くするのに最適です。言い換えれば、1日の撮影において一番最初に使うフィルターであり、そして一番最後に使うフィルターでもあります。

その濃度の薄さからあまり効果がないと過小評価されがちですが、次のような場面では欠かせないフィルターだと思います。

夜明け直前の、空高い雲に薄明かりが差し込み始めた時に撮影した1枚です。ISO 100、f/11、露光時間は2分。ここでの意図は、露光時間を2分まで伸ばし、雲の流線を捉えることと、荒々しい海の表情をフラットにすることで、あたかも一枚の氷で覆われているかのような雰囲気を演出することでした。

この写真をフィルター無しで撮影したとすると、露光時間は15秒になってしまいます。意図した効果が得られるだけの露光時間には足りません。ではシャッタースピードを優先にして露光時間を2分とするには、F値をf/22まで絞る必要がありましたが、それだと回析現象(小絞りボケ)が発生してしまいます。一方で、この場面で高濃度のNDフィルターを使用すると、露光時間が長すぎて雲の鮮明さは失われてしまっていたでしょう。
このような明るさの時間帯で撮影するのにはND8は欠かせません。

ND64

NDフィルターの中で最も使用頻度の高いフィルターがこれです。信じられないかもしれませんが、このフィルターが発売されたのはつい最近のことで、ND1000より薄い濃度のフィルターを求める写真家たちの要望が高まり、2014年にようやく発売されました。

ND1000は日中の日差しが強い場面では効果的なのですが、朝日や夕日のような時間帯で使用するにはそれなりの妥協が必要で、どうしてもISOや絞りを犠牲にすることになります。そんな日の出や日の入り時間を挟んだ前後約30分の時間帯に最も活躍するフィルターが、このND64だと私は思います。

この絞り6段分という減光濃度のおかげで、上記の時間帯において、ISO感度や絞り値の調整を然程することなく1分から3分間の露光時間を稼ぐことができます。

上の写真は、NiSi ND64を使用して、陽がまさに昇り始めた時に露光時間を2分まで伸ばして長秒撮影しました。かすかに色づき始めた雲が広がっていく様子を、その質感を損ねることなく撮ることができました。同じISOと露出で、より高濃度のフィルターを使用していたらこの感じは出せなかったと思います。(ノイズや回析現象を防ぐためにも、ISOと絞り値の設定はなるべく変えたくないですよね)

もしNDフィルターの中で1枚だけを選ばなければいけないとしたら、私はこのND64を選びます。それほどお気に入りの一枚です。

ND256

これまで紹介した2種類のNDフィルターは、定番の3枚(ND8, 64, ND1000)の内の2種でしたが、次に紹介するND256は今までになかった新しい減光濃度です。私がこれを選んだ理由を説明する前に、みなさんにお聞きしたいのですが、なぜ長秒露光といえばND1000を連想するのか、不思議に思ったことはありませんか。

単純に、私たちは流行りや周りの意見に影響を受けやすいというのが、恐らくその答えでしょう。つまり、Lee社が開発した大ヒット商品の「Big Stopper ND1000」を誰かが使っているのを見て、みんながND1000を使い始めたことがその理由だと。(その当時 販売されていたNDフィルターの種類が少なかったことも大きな要因だと思いますが)

品質や製造技術の点においては、今日のフィルターとは比べ物にならないこのフィルターも、当時は最先端のフィルターということで、手に入れるまでに何ヶ月も待たなければなりませんでした。このBig Stopperは、それを設計開発した人達が写真技術の進化や流行などを取り入れながら、製品開発したものだと思いますが、「長時間露光撮影といえば、真昼間の太陽光の下でやるもの」という当時の風潮を反映してこのフィルターは開発されたのでしょう。
そして、これは人気商品の定めですが、他のメーカーもその流れに追従し、類似品の製造を始め、今ではND1000フィルターが市場に溢れている、という訳です。

しかしながら、私たち風景写真家は、朝日や夕日を挟む時間帯を好んで撮影するわけで、その時間帯に高濃度のフィルターを使おうとすれば、絞りを大きく開いて露出を補正するか(被写界深度が浅くなる)、ISO感度を上げるかしかありません(ノイズの発生、特に長時間露光ではノイズが顕著に)

ND256は、強い日差しに対しても使え(日中の強い日差しよりは、日が傾き始める頃の暖色の光により適していると思いますが)、夕暮れと共に光が弱まり始めても、ISO感度や絞り値の設定を変えずに撮影ができます。これまでの経験から、ND64とND1000との間にある4段分の露出差をカメラの設定で補正しようと思うと、必ずどこかで画質を妥協せざるを得ませんが、私が一番よく使う濃度(ND64)から2段分の露出差であれば、画質を落とさないISOとF値の範囲内で、どんな光にも対応することができます。

例えばこの作例ですが、かなり眩しい光源でしたが、NiSi ND256フィルターを使用することでISO100、f/11のままで2分の露光時間を確保できました。もしこの条件でND1000を使用していたら、(ND256との)2段分の露出差をどこかで調整しなければならなかったはずです。設定を変えるとすると、ISO200、f/8(これでは適正露出は得られません)ISO400、f/11(これも論外)ISO100、F/5.6(もはや冗談の域です)

これからND1000の購入を考えている方、もしくは定番の3枚 (ND8,ND64,ND1000) をすでに持っている方も、考えてみて欲しいのですが、この2段分の露出差をフィルターで調光するか、それとも画質を妥協するか、どちらがよりよい方法なのかは、言うまでもないでしょう。

偏光フィルター

NDやハーフNDなども含めた、あらゆるフィルターの中からどれか1つを選ぶとしたら、私は迷わず偏光フィルターを選ぶでしょう。

前回の記事を見逃した方のために、偏光フィルターについて簡単におさらいです。偏光フィルターは、(ガラスや水面など)金属以外の被写体から反射される光を取り除くことができます。構図のほとんどを水面が占める海景写真では このフィルターがどれほど重要かは想像に難くないですが、一方で、山岳風景においても、植物の色を鮮やかにしたり、雲を鮮明に写し出したりと、あらゆる風景撮影で使えるフィルターです。

PLフィルターを使用して撮影したこちらの作例では、フィルターの偏光効果によって、沿岸付近の海底部分を写し出すことができました。水面下に見える岩の配置や、海底の明度により個性があり、海底部分を取り入れることで作品のアクセントとなります。
偏光ムラを避けるために、このフィルターの使用には特に注意が必要です。PLフィルターは光の入射角によって効果が異なること、また構図全体で均一にならないことを理解した上で使う必要があります。(一見複雑に思えますが、正しい使い方を学べば、簡単に使いこなせるでしょう)

私がここで使用している偏光フィルターはNiSi ランドスケープCPLです(この製品レビューはこちらを参照ください。)

PLフィルターにこの1枚を選んだのは、まず品質面において非常に優れていること。そしてNiSiのホルダーと併用すれば、複数枚のフィルターを重ね付けすることができるからです。(例えば、前述のようにハードGND8 (0.9)、ソフトGND4 (0.6)、ND64 の3枚を重ねることもあります)最大16mm(フルサイズ換算)の広画角側で使用してもケラレがなく、非常に気に入っています。

まとめ

私がいつもカメラバックに入れているフィルターをまとめると、

全部で7枚です。1000枚も必要ありません(笑)この7枚さえあれば、あなたも確実に私のギャラリーで見られるような写真を撮影するができるでしょう。カメラやレンズを選んだ時のように、良い画質を得るためにはもちろん多少の投資は必要ですが。。。

フィルターを使用して撮影すること。それは、人それぞれ様々な理由があっての選択に過ぎません。私がフィルターを使う一番の理由は、スクリーンの前で撮影後のレタッチに時間をかけるより、自然の中で撮影を楽しむ時間をより多く持ちたいからです。そうすることで、たとえ思い描いた結果を得られず、収穫なしで帰宅したとしても、また撮影現場に行きもう一度撮るぞ!という気持ちが湧いてきます。

Francesco Gola

イタリア在住の写真家、エンジニア。長秒露光による海景を得意とし、世界中を旅して海景を撮影。また、世界中でワークショップを開催していており、WEBSITEから申し込みも可能。

 

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