写真家 安彦嘉浩さんに訊く

2016年に北海道に移り住んだ安彦嘉浩さん。その壮大で美しい大自然に魅せられ、本格的に風景写真に取り組むようになり、翌年にはNATIONAL GEOGRAPHIC Your Shot “The DAILY Dozen”を獲得。その後も短期間に数々のコンテストで入賞を果たすなど、写真家としての頭角を現しています。躍進を続ける写真家の推進力とは何か? 安彦さんに訊きました。

Explore 北海道 /SONY α7RII, SONY FE 70-200mm F4 G OSS, 1/320 sec, f/6.3, ISO640
[掲載] NATIONAL GEOGRAPHIC Your Shot “The Daily Dozen” ( Jun 02, 2017 )

エントリークラスの一眼レフでヘルシンキの街を撮った

____ 写真をはじめたきっかけを教えてください。

2011年、大学生のときに短期留学でフィンランドのヘルシンキに行っていました。美しい北欧の町を、写真できれいに残しておきたいという理由で、エントリークラスの一眼レフを買ったのですが、写真の面白さを知ったのも、その時です。それ以降、旅行で行った先々の風景を撮影するのが楽しみになりました。

卒業後、すぐにプロ写真家の道には進みませんでしたが、転職を機に、2016年から北海道に住むことになりました。本州とは違う壮大な北海道の風景は本当に綺麗で、写真に撮るなら本格的に臨み、より綺麗に撮りたいと思うようになりました。

____ SNSやコンテストへの投稿を始めたのは、いつ頃からですか?

instagramへは2016年から。NATIONAL GEOGRAPHICへは2017年からです。NATIONAL GEOGRAPHICでは「僕の写真はきっとウケないだろうな」と思いつつ、まずは腕試しのつもりで投稿を始めました。しかし、何回か投稿するうちに、「では、ウケるにはどうすればいいんだろう?」 と考えて撮るようになりました。この子ギツネの写真は、確か投稿6枚目くらいで、The Daily Dozenに選ばれました。

この写真を撮ったときは、いつものように平日の夕方の仕事帰りに、風景を撮るつもりだったのですが、ある場所で子ギツネを見つけたんです。驚かせないように慎重にクルマから降りて、地面ぎりぎりでカメラを構えていたら、向こうから近づいて来てくれました。逆光の夕日が子ギツネのフワフワの毛を照らし、なんとも愛らしく、夢中でシャッターを切りました。この作品がThe Daily Dozenに選ばれたことで、自分の写真に自信が持てるようになりましたし、風景だけでなく、野生動物も撮るという、自分の方向性を決める1枚にもなりました。

Spring Pattern 北海道 美瑛町/ SONY α7RII, SONY FE 24-70mm F2.8 GM, 20.0 sec, f/22, ISO50 /  NiSi IR ND1000
[Award] The “Prix de la Photographie, Paris” (Px3), Nature / Trees Professional  “Bronze”

___ 風景写真から始められたんですね。

北海道に来て最初の頃は風景ばかりを狙っていました。この写真は、みなさんご存知の「夕日の木」と呼ばれている美瑛町の風景ですが、最初からモノクロで仕上げると決めて撮影しています。曇り空の昼間の撮影でしたが、雲の流れで空の表情をつけるために、ND1000を使い、絞りはF22、露光時間は20秒間です。実は撮る前まで雨が降っていたのですが、あとで考えると、雨で濡れたことで地面の土と畑の農業用ビニールシートに濃淡さが出て、印象深い写真にすることができました。この作品では、PX3コンテストのネイチャー部門で、ブロンズ賞をいただいています。

Arrival 北海道 豊頃町 大津海岸 / SONY α7RIII, SONY FE 16-35mm F2.8 GM, 0.8 sec, f/10, ISO100 / NiSi IR ND64 +NiSi Soft  Nano IR GND8

この写真もモノクロで仕上げると決めて撮影した、ジュエリーアイスです。ジュエリーアイスの写真は、朝日の写り込みを狙って撮影する人が多いので、ジュエリーアイスが出現する時期、早朝の十勝川河口・大津海岸はカメラマンで混雑するんですね。私は午後2時くらいに行ったんですが、海岸には2~3人しか人がいなくて、ゆっくり撮影できました。

____ ジュエリーアイスの写真をモノクロで見たのは、初めてです。

氷の透明感を出すにはモノクロにして、メリハリを付けた方が良いと思いました。波の寄せ返しを表現するためにND64を使い、背景の空が白トビしないように、ハーフNDも使っています。後処理で調整できる幅を持たせておくためにも、白トビの無いデータにしておくことは重要で、その意味でも、ハーフNDフィルターの果たす役割は大きいと思います。
ただ、野生動物の撮影となると、フィルターを使う時間がないことがほとんどです。夢中で撮影してしまうので(笑)。

Good Friend 北海道 / SONY α7RIII, SONY FE 24-70mm F2.8 GM, 1/400 sec, f/6.3, ISO100
[Award] Nature’s Best Photography Asia 2018  “Highly Honored WILDLIFE”

夢中で撮影した野生動物といえば、この写真がそうですね。キタキツネは口の大きさを競い合う習性があるのですが、野付半島でそれを見かけて、かなり近い距離で撮影しました。キツネと同じ目線の高さで撮りたかったので雪に寝転がり、1時間で5千枚くらい撮りました。大事な瞬間を逃したくありませんから。そのくらい、僕にとって野生動物は撮りたくなる被写体です。この作品はNature’s best Photography ASIAの野生動物部門に入選したもので、若干のトリミングや調整などをしていますが、さすがに現場でフィルターワークをする余裕はありませんでした。

___ 海外のコンテストに応募されていることが多いようですが?

日本のフォトコンテストで受賞されている作品を見ると、画面の隅々まで全部が綺麗に構成されたものが多いと思いました。繊細というか、こと細かな印象です。それに較べると海外のコンテストの受賞作は、メリハリがはっきりしていて、「ここを見てくれ!」と主張しているものが多い。僕の写真もメリハリと主張のある作風だと思うので、海外のコンテストの方が、僕に合っている気がしています。

Halo Fox 北海道 / SONY α7RIII, SONY FE 24-70mm F2.8 GM, 1/800 sec, f/13, ISO100
[Award] ソニーストア 札幌オープン1周年記念 北海道フォトコンテスト “井上浩輝賞”

目標の写真家に認められた受賞作から、次なる一歩へ

____ 日本のコンテストでも受賞されていますよね。

ソニーストア札幌の1周年記念フォトコンテストで、「井上浩輝賞」をいただきました。キタキツネといえば井上浩輝さんというくらい、キタキツネの写真で知られるプロ写真家なので、最優秀賞ではなく、井上浩輝賞をいただいたことを嬉しく思っています。作者名を伏せて行われた審査で受賞できたということは、井上さんに認めてもらえたんだと思い、自信になりました。この受賞作が、風景か、野生動物か、ではなく、綺麗な風景の中に生きる野生動物、という次なるジャンルを示してくれました。写真家としてのターニングポイントになった1枚です。

※井上浩輝:北海道在住のプロ写真家。キタキツネの写真で「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』ネイチャー部⾨において、⽇本⼈初の1位を獲得。キタキツネを主に北海道の野生動物や、風景の写真で知られる。

____ハロが印象的な写真ですね。

この日もキタキツネを狙っていたのですが、空を見ると薄雲の中にハロが出ているのが見えました。ハロは時間が経つにつれ薄くなったり、一部が欠けたりするので、きれいな円になっている時に、キタキツネが現れないかと、ずっと待っていました。そして、キタキツネは出て来てくれたのですが、なかなか画面の良い位置に来てくれない。やきもきしながらも高速シャッターで何枚も撮影し、 やっと撮影できた1枚です。フィルターは使っていませんが、撮影したときからモノクロで仕上げようと決めていました。

Array 北海道 千歳市 支笏湖/ SONY α7RII, SONY Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS, 112.0 sec, f/18, ISO160 / NiSi C-PL & IR ND1000

____ 支笏湖の観光パンフレットの撮影もされていますね。

共通の知り合いを通して、支笏湖観光センターの方から声をかけていただきました。支笏湖へは自宅から車で30分ほどなので、毎週のように通っています。この写真は去年の6月に、美笛という地区側から撮影しましたが、本当は朝日に期待していたんですね。しかし、いつまでたっても曇りのまま。諦めて帰ろうと思いましたが、風がほとんど吹いていなくて、湖面に朽木がきれいに映っていました。それでND1000フィルターとハーフNDを使って、湖面の写り込みと雲の流れが出るように、長時間露光で狙ってみました。支笏湖は撮影ポイントによって、全く表情の違う写真が撮れるので、身近な場所ですが、すごく魅力的な被写体です。

Frozen 北海道 釧路市 阿寒湖 / SONY α7RIII, SONY FE 16-35mm F2.8 GM, 0.8 sec, f/18, ISO100 / NiSi C-PL + NiSi Soft  Nano IR GND8

この写真は支笏湖ではなく阿寒湖ですが、ハーフNDフィルターで背景の山と朝焼けを見せながら、結氷した湖の表情を出すために、PLフィルターも併用しました。朝日の出る方角は、サン・サーベイヤーというアプリや、ストリートビューで調べて、背景の山と合わせて構図を決め、氷点下10度の中で、朝日が出るのを待ちました。PLフィルターを回し、氷の表面反射が消えると、湖底から発生したメタンガスの泡が、氷に封じ込められてできるアイスバブルが鮮明に見え、イメージに近い写真にすることができました。

Water Stage 山形県 飯豊町 白川ダム湖 / SONY α7RIII, SONY FE 24-70mm F2.8 GM,  4.0 sec, f/20, ISO50 /  NiSi C-PL

反対に水面の反射(写り込み)を鮮明に出すためにPLフィルターを使ったのが、この写真です。今年のゴールデンウィークに、故郷の山形に帰った時に撮影しました。ここは飯豊町の白川湖といって、白川ダムが作る湖なのですが、春になると雪解け水が大量に流れ込み、放水を始める間の限られた期間だけ、水没林が現れます。去年撮影に行ったときは晴れていましたが、今年は霧が出ていたので、水鏡と霧によって神秘的な写真になりました。

名刺代わりになる被写体を見つけ、世界に向けて発表する

_____ 北海道以外の写真にも取り組んでいるんですね。

風景と動物をハイクォリティで撮る、というベースの部分は変わりませんし、綺麗な風景の中に生きる野生動物というジャンルも、続けていきます。ですが、例えば、キタキツネの写真といえば、井上浩輝さん、というような自分の名刺代わりになる被写体やジャンルに、まだ出会っていない気がします。今は色々な被写体を撮って、それを模索しているところでしょうか。自分の写真の魅力が発揮できる被写体を見つけ、世界中に発表してゆくことが、今後の目標です。

安彦 嘉浩 Yoshihiro Abiko

1989年山形県生まれ。北海道千歳市在住。2016年、北海道への配属がきっかけとなり、本格的に写真の世界にのめり込む。北の大地の壮大な自然に魅了され、休日のほとんどを撮影に費やす。印象的ながらも、いつまでも眺めていられる1枚を追い求め活動している。

 主な受賞歴

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