フォトグラファー 渡辺 守さんに訊く

山梨県の富士山麓に蕎麦店を構え、富士山の写真を撮り続けている渡辺守さん。日本料理の職人が故郷で蕎麦店を開き、お客さんに感化されて写真をはじめて5年。地元の情報を発信したいという思いで作品を発表すると同時に、近年ではフォトコンテストでも多数入賞。そんな渡辺さんの作品作りについてうかがいました。

タイトル:ひまわり畑の夕暮れ
撮影データ:Canon EOS 6D, EF16-35mm f2.8L Ⅱ USM, F13, 1/2秒, ISO100
フィルター:NiSi ソフトGND0.6
Canon Image Gatewayコンテスト「47都道府県の魅力新発見フォトコンテスト2017」の山梨県部門 優秀賞受賞作品

天の川とひまわりを撮りに行った時に、思いがけずに撮れた写真です。前日の夜は、天候が悪くて撮影できず、2日目のこの日は、少し早く来て夕方から待機していたところ、雲が出てきてこのシチュエーションになりました。
すでに暗くなりはじめていて、空はきれいに焼けていました。しかし、ひまわりのシャドウ部分は相当暗い。そこで、空と手前の明暗差を埋めるために、ハーフグラデーションフィルターを使いました。現像の際にもシャドウは全く上げず、ハイライトを少し抑えたくらいで、ほとんど補正はしていません。フィルターを使わずに、現像時に手前のシャドウを起こしていたら、この質感は出なかったと思います。
また、地平線と空の境目の部分も直線ではないので、ミディアムやハードではなく、ソフトを選択しました。境界の幅が広いのに、自然な感じで撮れているのはソフトならではですね。
撮影する少し前に雨が降り、地面もひまわりも少し湿っていて、ひまわりが満開になった直後のタイミングで撮影ができました。もう少し時間が遅かったり、雨が降らなかったら、ひまわりもこんなに元気じゃなかったかもしれません。

「キミにこの写真は撮れないだろう」からはじまった写真生活

—-はじめに、フォトグラファーとしてのこれまでの経歴を教えてください。

私は富士山のそばで蕎麦屋をやっていまして、お客さんの中には富士山を撮りに来る写真家の方も多いのです。ある日お客さんが、見事な赤富士と月の写真を見せてくれたんです。そのときに「キミにこういう写真は撮れないだろう」と言われたんです。それでカチンときて、それなら絶対に撮ってやる、と思ったのが写真をはじめたきっかけです(笑)

—- いじわるな人ですね(笑)。それがいつ頃ですか?

5年前です。でも、そのことがなければ写真をはじめていないので、大恩人です(笑) 名古屋から富士山を撮りに20年以上通っている方でした。
そこで、すぐにEOS70Dとキットレンズ2本を買って撮りはじめました。同じシチュエーションで撮ろうとしたのですが、月が出る位置も太陽が出る位置もわからない。いくら撮っても全く違う写真しか撮れない。それで自分なりに調べたり、カメラ屋さんで相談したりしはじめました。

—-ずーっとその写真と同じシチュエーションを撮ろうとしていたんですか?

はじめはそうでしたけれど、そのシチュエーションを待っている間にも、色々な風景が見えてくるわけです。朝と夕方には違う雲の表情があり、ブルーモーメントのきれいな時間帯があり、前景には花もある。そういうのを見ていて、別の写真も撮りたいたいと思うようになりました。

—–その頃は、どのくらいの頻度で撮影をしていたのですか?

お店が繁忙期でなければ、夜中の2時、3時にでかけて撮影していました。富士山周辺だと家から1時間圏内なので、店の仕込みが始まる6時までには十分時間がありました。仕事の後は、夕景が間に合えば夕景を、そうでなければ夜中の撮影を、という日々でした。

—–そういう中で、よし、うまく撮れた、というよう手応えはあったのでしょうか?

最初に手応えをつかんだのは、はじめて2年目頃です。花火大会の撮影へ行く前に、自分なりに構図やシチュエーション、露出などのセッティングを考え抜いて、完璧に準備をして行きました。そうしたら、すべての要素がうまい具合にピタッとはまった。ああ、これはいいじゃないかと、そういう写真が撮れたのです。その作品ではじめてフォトコンテストに応募して、入選することができました。

——そのときは何がそれまでと違ったのでしょうか?

撮影のための予習ですね。ただそこに行って撮るのではなくて、どういう変化にも対応できるように、下準備をして行きました。花火写真はコンポジットで仕上げる方が多いのですが、私は一発で撮ろうと思った。
その日は月齢が16、7で、花火の開始時間が夜8時。月もちょうど山頂に上がってくるだろう。そこで、前日の月のあかりで露出を確認して、花火単体で撮る露出にはめこんで設定しておきました。他にも考えられる準備を全部していったんです。当日は、それらが全部うまくはまった。そういうときは気持ちがいいものですね。

——行く前に状況が読めるようになったのも、2年間の積み重ねの成果でしょうか?

当時は年間で200日くらいは撮影に行っていましたからね。例えば天気予報だけではわからないことがあるので、天気図やGPVの気象情報を見たり、定点カメラを見たり、そういう経験がすべてカテとなったのかなと。また、生まれ育った土地なので、こういう状況だとこうなるだろうというのが、なんとなくわかるというのもありますね。

—–その会心の作品は、写真をはじめるきっかけをくれた人には見せたのですか?

はい。「まだまだだな」と言われて、またカチンときました(笑)。その頃には月を狙う精度もずいぶん上がってきたので、じゃあ改めてあの写真を狙ってやろうと。でも、まだまだあの写真は越えられない。同じようなロケーションと同じような時間帯に出会えたのは、いままでで一度だけです。
その写真のように、月と富士山が赤く染まるタイミングの写真が撮れるのは、月に多くて3日。去年は冬場の紅富士、夏場の赤富士の時間帯で月を狙える日は、天候の都合で2日しかなかったのです。あのシチュエーションは、5年10年追いかけて1枚撮れるかどうかでしょうね。

——それでも、まだそのシーンを追いつづけているんですか?

はい、常に追いかけています。

タイトル:峠の秋の夕暮れ
撮影データ:Canon EOS 6D, EF16-35mm f2.8L Ⅱ USM, F9, 1/20秒, ISO200
フィルター:NiSi ソフトGND0.6, CPLフィルター

NiSi杯美しい日本・フォトコンテスト 入選

この日は富士山の5合目で紅葉を撮影していたのですが、ふと反対側を見たら、雲が出てきていた。向こう側から雲海越しに富士山を撮ったら面白いと思い、すぐに河口湖の向こう側、三笠山へ向かいました。着いた時には、富士山はまだ雲の中でしたが、夕焼けの時間になったら、スーッと晴れてきた。
富士山にはもう陽が当たっていなくて、空だけが明るく、手前はすごく暗い。空の露出に合わせて撮りたかったので、ハーフグラデーションフィルターを装着して、1枚撮りました。空の青さ、深みが出ない上に、富士山の左上の雲のコントラストがうまく出ず、立体感がない。そこでPLフィルターを追加して、コントラストを強くした。
しかし、今度は陽がさらに落ちてきて、手前がもっと暗くなってしまった。そこで、定常光でカメラの左側と、右手の紅葉の木の下、そして右側の少し離れたところの計3カ所を照らして撮影しました。5枚ほど撮ったらまた雲が上がってきて終了。その間、7、8分でした。

撮影時に”ちゃんとした”写真を撮りたい

—–フィルターを使用しはじめたのはいつ頃からですか?

2年ほど前からです。それまでは一緒に撮っていた人が、フィルター使うのは邪道だと言っていたので、使っていませんでした(笑)。しかし、明暗差が潰しきれないシチュエーションがたくさんあって、デジタルでは調整しきれないことも多かった。フォトコンテストによってはレタッチNGという規定もあり、それではフィルターがないと不利ですからね。

—–はじめに使ったフィルターは何ですか?

はじめは、知人が使っているフィルターを借りて、角型フィルターを試してみたのです。
例えば早朝、花に水滴がついているような、パリッとした時間帯に撮ろうとします。空に露出を合わせると手前の花のシャドウがつぶれ、花に合わせると空が飛んでしまう。でも、その時間だからこそ空がクリアで花もシャキッとしているわけです。そこでフィルターがなければ、後で現像でなんとかするか、もう少し日が昇り、明暗差がなくなるまで待って撮影するしかない。でも、その頃には空はかすみはじめ、花のみずみずしさも逃げてしまっています。

—–一番よい時間帯のシャッターチャンスを逃してしまうわけですね

そうです。一番撮りたいときに撮れない。補正には限界もありますし、私は、撮る時にできるだけ補正が入らないように撮るのがベストだと思っています。撮影時にきっちり撮れていれば現像も簡単です。
そのためには道具が必要で、フィルターもその中のひとつですね。明暗差をつぶすという局面で、NiSiのフィルターに出会えて撮影の幅が確実に広がりました。

タイトル:幻の夕暮れ
撮影データ:Canon EOS 6D, EF16-35mm f2.8L Ⅱ USM, F11, 3秒, ISO100
フィルター:NiSi ランドスケープNC CPL, ミディアムGND0.9

ここは、日中だけ雪解け水で滝ができる場所なのです。この日は水が少し残っている時間帯に、富士山の真上に月齢1.4の月が昇る予定だったので、それを撮りに来ました。雲が出てきてしまったので、その撮影は諦めかけたのですが、この雲でむしろ空が焼ける可能性があるなと思い、少し待っていたら、年に数回あるかないかの「爆焼け」になったのです。
夕焼けが横に広がり、滝の流れた筋が手前まで伸びてきて、水面に夕焼けが反射している。空をワイドで撮りつつも、手前も撮りたい。滝が流れ終わった後なので、流れたところの筋がきれいにピンクに染まっている。しかし、横位置だとそこまで入らないので、16mmの横位置で撮影した写真を縦に2枚重ねました。普通だったら20mmの広角縦位置で撮るような写真ですが、それでは表現できないと思ったのです。
空と手前の岩の部分は、4段から5段の明暗差があったので、フィルターなしに現像で上げるのは難しかったと思います。手前がつぶれていたら、普通の夕焼け写真でしかなかった。ここにあるような、自然の荒々しさ、おどろおどろしさみたいなものは表現できなかったでしょうね。

何があっても対処できる、引き出しの多さがシャッターチャンスをつくる

—–作品の制作過程をうかがうと、本来狙っていなかった時に撮影できた作品も多いようですね。

そうですね、何があっても対処できる準備をして撮影に臨むようにしています。
1枚目のひまわりの写真では、本来は星空を撮るつもりだったので、ハーフグラデーションフィルターを持って行く必要はない。でも、何があるかわからないから持っていた。あの写真は、フィルターなしでは撮れていない作品です。

—–2枚目の写真の説明でも、どこから定常光が出て来るのか不思議に思いました(笑)

もちろん持ち歩いていたからあの写真が撮れたんです(笑)。定常光を使い始めたのは、写真館をやっている友人が風景撮影でもスタジオ用のモデリングランプを使っていて、いろいろ教えてもらったからなのです。さすがにモデリングランプは重いので、軽くて持ち運べるように、定常光を選んだのです。桜の季節、車のヘッドライトで桜を照らして撮る人はたまにいますけれど、定常光を使う人はいませんね。僕がセッティングしてたら、何人か教えてくれと言ってきて、買った人もいますよ。

—–3枚目の写真にも何かありそうですね?

撮影場所は、車を置いて30分くらい登った場所なのですが、カメラ2台、三脚2台しかもギア雲台付き、レンズ4本とさらにフィルターを持って行っています。16ミリ横位置を縦に重ねるためには、ギア雲台がなければできませんでした。

—–さすがです。そういう際には、撮りたい写真のイメージが明確にあり、それに近づけるために道具を駆使してゆくという感じなのでしょうか?

そうですね。いくら撮影イメージをもてても、道具がなければ実現できないですよね。また、たくさんの人が撮るようなロケーションでは、人と同じような写真は撮りたくないので、人が撮らないような写真を考えます。そういうときにも、フィルターなどの道具の助けを借りることで、人とは違う写真が撮れるのだと思います。

—–これからフィルターを使いはじめる人がいたら、どのあたりからはじめればよいと思いますか?

まず、ミディアムのハーフNDフィルター GND8(0.9)をおすすめしています。効果がわかりやすくて使いやすい。手前の景色を活かしつつ、きれいな空が撮れると思いますよ。

渡辺 守 (Watanabe Mamoru)

富士山麓の山梨県富士河口湖町生まれ。富士を庭石のように感じつつ育つ。高校、専門学校卒業後、都内の有名料亭・ホテル等で日本料理の料理人として修行、地元に戻り蕎麦屋を起業。お客様の職業カメラマンやアマチュアカメラマンに感化され、富士山をメインに撮り始める。日本料理師範としての歳時記等を大切にし、独自の視線から撮影している。

コンテスト受賞歴:

  • Pashadelic SNS 富士山フォトコンテスト #fujidelic2018 最優秀賞
  • 2018アサヒカメラ×東京カメラ部共催「日本の47枚」山梨枠選出
  • JAPAN PHOTO 2017 春夏 フォトコンテスト ネイチャー・生き物部門 グランプリ
  • 住友不動産 ステップアップフォトコンテスト 入選
  • NiSi 美しい日本フォトコンテスト2017 入選
  • キヤノンイメージゲートウェイ 47都道府県の魅力新発見フォトコンテスト 2016入選 2017優秀賞
  • 地球の歩き方の旅 「お気に入りジャパン」日本の魅力を伝える動画・写真コンテスト グランプリ
  • 富士山写真大賞 入選
  • 富士河口湖町観光写真コンテスト 入選
  • 富士山モールフォトコンテスト 入選
  • 山中湖フォトチャレンジ 入選
  • サンキャッチャーフォトコンテスト2017 優秀賞
  • その他フォトコンテスト入選多数

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