写真家 木全雅裕さんに訊く

子どもの頃から旅先で見る景色が大好きで、家族旅行のカメラマン担当は、いつも自分だったという木全雅裕さん。2014年に憧れの地であった北海道・知床に行く機会を得た木全さんは、知床の美しい風景を写真に残そうと一眼レフを購入し、何百枚もの写真を撮ります。しかし、帰宅して見直すと、どれも納得のゆく写真ではないことにショックを受け、独学で写真を学ぶと同時に、絶景を求めて各地に遠征していきます。気に入った場所があれば何度も何度も足を運び、その美しい風景が、絶景となる瞬間を狙いますが、相手は自然。そう簡単に絶景は現れてくれません。ときには何も撮れずに帰ることもある風景写真について、木全さんは「絶景と撃沈は紙一重」だと言います。それでも撮り続けて、息を飲むほどに美しい写真作品に仕上げる木全さんの情熱は、どこから来るのでしょうか? 木全雅裕さんに訊きました。

夜明けの雲海 / Nikon D810 + AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR, 120sec, F10, ISO64 /NiSi AR ND1000

子どもの頃から風景が好きだった

____ 写真をはじめられたきっかけを教えて下さい。

写真ということだけで言えば、小学生の頃、家にはコンパクトカメラがあって、家族で旅行に行くときは、ほとんど僕が写真を撮っていました。その頃から僕は風景写真を撮るのが好きだったのかもしれません。僕の住まいは名古屋の町の中なので、家からでは綺麗な夕焼けとか、山の緑とか、星空とかは、ほとんど見えませんでした。そんなこともあって、家族で旅行に出かけたときに見る、自然豊かな景色が嬉しかった。両親からも「おまえは本当に田舎が好きだなぁ」なんて言われてましたから。社会人になってからも、友達と旅行にいくときは、必ず僕が写真を撮っていました。

それから僕は料理の勉強をして料理人になり、名古屋で初めて自分の店を出しました。自分の店のメニューを自分で撮ったのですが、料理を美味しく撮るのは難しくて、もっと写真が上手くなりたいと思いました。ただ、そのときは本業の料理の仕事が忙しくて、写真にのめり込む時間はありませんでした。残念ながら、その店も今はありませんが。

____ 本格的に写真に取り組み出すようになったターニングポイントはありますか?

2014年の夏に知床に旅行に行くことになったのですが、知床は僕の憧れの地でもあったので、それなら、知床の美しい風景を写真に残そうと思い、一眼レフを買いました。実際に行くと、やはり美しい風景がいっぱいあって、何百枚も写真を撮りました。ところが、知床から帰ってきて撮った写真を見たら、「えっ、こんな写真なの?」っていう、納得のいかない写真ばかりでした。一眼レフまで買って数十万円をかけて行った知床の旅を、思った通りの写真にすることができなかったことは、僕にとってすごいショックでした。そんな知床での失敗が、本格的に写真を撮るようになった僕のターニングポイントです。
それから、なぜ思い通りの写真にならなっかたのかを調べてみると、まず僕が買った一眼レフは、APS-Cというセンサーサイズの入門機とキットレンズのセットで、もっといいレンズやボディがあることが分かりました。思い切って35mmフルサイズセンサーのボディや、高性能レンズに買い換え、もっと上手に撮る方法を、ネットの写真共有サイトなどで、調べました。その当時はまだ写真の友達は居なくて、何処で何をどう撮ったら、きれいな風景写真になるか全く知りませんでしたので、ネットや本で調べては、撮影スポットに出かけるようになりました。

絶景を求めて撮影スポットへ

朝陽射す /NikonD850+AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED, 25sec,F10, ISO64/NiSi 150*150mm AR ND1000(3.0)/NiSi AR ND1000 + NiSi 偏光フィルター HD PL

____ NiSiのフィルターを使い始めたのはいつ頃からですか?

2015年からだったと思います。この写真もNiSiのフィルターを使って撮影した乗鞍高原まいめの池ですが、実はこの日、長野県の高ボッチ高原で富士山と雲海を撮ろうと思い、深夜から朝4時まで粘ったのですが、霧が抜けませんでした。しかたなく第2の候補地だった乗鞍高原まいめの池まで1時半かけて移動しました。高ボッチ高原は霧の中でしたが、乗鞍高原は晴れていて、日の出前ギリギリに到着すると、乗鞍岳に面白い雲がかかり、フラットになった池が見事な水鏡と化していました。早速、三脚を立てて撮影しはじめたのですが、朝日が昇ってくると、光が強過ぎて木々の葉の色が、トビ気味であるのが分かりました。NiSiの角型フィルター150 x 150mm偏光フィルターの出番が来ました。さらに、風が吹いて水面も波立ってきたので、150 x 150mm AR ND1000(3.0)とのダブル装着で撮影し、水鏡と森の木々、そして乗鞍岳をバランスよく写真に収めることができました。
この時、使用したレンズはニコンのAF-S NIKKOR 14-24mmf/2.8G EDなのですが、このレンズに装着できるフィルターは、NiSi150mm角型フィルターしかありません。僕がNISi製品に辿り着いたのは、このレンズに装着できるフィルターを探していたことがきっかけでした。

澄み渡る清流 / Nikon D850 + AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED, 1/320sec, F5.6, ISO64 /NiSi Nano IR GND8

この写真は観光地として多くの人が訪れる上高地、その中でも撮影スポットの定番として知られる大正池です。たくさんのアマチュアカメラマンや観光客がやってきますので、良いシーンを撮りたかったら、朝一番のバスやタクシーを使うか、前日からホテルに泊まって早朝から撮影するのがお勧めです。僕も、そんな人気撮影スポットを、どうやって撮ろうか考えたのですが、これだけ綺麗な水鏡ならNDフィルターを使って長秒時露光をする必要はなく、むしろ、こんなにも澄み切った水なのだから、澄み切った水のまま表現したいと思いました。ただ気になったのは、空と水面の明暗差でした。その対策として選んだのが、ハーフND8ソフトグラデーションです。このフィルターを使って撮影し、帰宅後、RAW現像で仕上げていったのですが、左手前の池端部分などにある暗部が、黒潰れしないように細心の注意を払って現像する必要がありました。それでも、フィルターのおかげで空の雲も白トビすることなく、綺麗な階調表現が可能になり、ハーフND8ソフトグラデーションの効果が十分に発揮された作品にすることができました。

夜明けの雲海 / Nikon D810 + AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR, 120sec, F10, ISO64 /NiSi AR ND1000

____ お気に入りの撮影スポットはありますか?

長野県の高ボッチ高原は、秋になると早朝に雲海が発生して眼下の諏訪湖を覆い、雲海の向こうに富士山が浮かぶ撮影スポットとして知られています。2015年11月21日は、地元の人でも驚くようなきれいな雲海が現れ、その状態が夜が明けても続き、雲海の上の富士山もクッキリと見えました。写真仲間の間で「伝説の日」と呼ばれる絶景の日でした。僕もその日、その場所に居て、三脚にカメラを据えて深夜から朝まで撮り続けていました。土曜日の朝でしたので、写真を撮っている人も多く、撮影後は皆で珈琲を飲みながら、絶景を撮った喜びの余韻に浸っていたほどでした。
ところが、帰宅後、自分の撮った写真を見てみると、全然、綺麗に撮れていなかったのです。すごくガッカリしましたが、綺麗に撮れなかった原因を、いろいろ調べてみました。分かったことは、この頃の僕は撮影技術も現像技術も、まだ未熟だったということです。それから、毎年、雲海のシーズンになると高ボッチ高原に出かけています。もちろん、休日と天候の都合が合えばですが、実際には、あの日のような絶景に出会うことは、なかなかできません。自然が相手なので、仕方のないことですが、今の自分なら、あの日の絶景を、あの美しさに見合った作品にできると思って…

そして、この写真は、「伝説の日」のリベンジで2016年11月30日午前6時46分に撮影したものです。でも、まだ納得できたわけではありません。夜が明けて空が茜色に染まり、雲海の下には街明かりが残ったまま、雲海の上に堂々たる富士山が浮かぶ、そのすべてのタイミングが重なり合った「伝説の日」の再現を求めて、僕はこれからも高ボッチ高原に通うつもりです。

夕陽の降臨 /NikonD810+AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED, 1/40sec, F10, ISO64

上の写真は三重県熊野市にある丸山の千枚田です。撮影スポットとしてよく知られた場所で、この作品がパシャデリックグローバルフォトコンテスト2018で世界の30選に選ばれました。ここは奥に山があって夕景になりにくい場所で、しかも、その日の天気予報は雨。諦めようと思ったのですが、それでも行ってみると、奥の山が霞んで、その霞が夕焼けの色を帯びて赤く染まり、千枚田の夕景を撮ることができました。天候が悪いと撮影を諦めてしまいがちですが、そういう時に思いがけない絶景が現れることもあるので、「絶景と撃沈は紙一重」だと感じます。
そして、この写真を撮ったあと、その足で向かって撮影したのが、和歌山県・橋杭岩の写真です。丸山の千枚田から橋杭岩まで車を走らせ、着いたのは夜の2時くらいでした。本当はここで天の川と橋杭岩の写真を撮るつもりでしたが、とにかく眠くてしかたなかったので車の中で仮眠をとり、朝焼けだけは絶対に撮ろうと決めて撮影したのが、次の写真です。空が最も焼けたときに、ND1000とハーフグラデーションフィルターを使い、橋杭岩を中心に朝焼けに染まる空と海を撮影しました。

橋杭岩の夜明け / Nikon D810 AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED, 25sec, F4, ISO64 /NiSi AR ND1000NiSi Nano IR half GND8 soft

写真の仕上げは料理と似ている

_____ 今後の目標や、やってみたいことはありますか?

上の富士山と雲海の写真は、2015年の第63回ニッコールフォトコンテストのネイチャー部門で準特選をいただいたものです(上のスライド1枚目/左)。賞をいただいてすごく嬉しかったのですが、この場所でもっと良い写真が撮れるはずだと思い、受賞後も通って撮影したのが、次の写真です(上のスライド2枚目/右)。受賞作は、まだ撮影技術も現像技術も未熟な時に試行錯誤しながら撮った写真ですが、2枚目はそれから1年後、月が明るい夜に行って撮った写真です。月光を活かして街の明かりに雲海が染まった瞬間をとらえることができて、イメージ通りの作品に仕上がりました。この撮影地も行くたびに違う景色で楽しませてくれるので、今後も通うことがあると思います。

僕はRAWデータで撮影して、自分で現像するスタイルをとっていますが、これからも、このスタイルを続けたいと思います。例えば料理で言うと、最初からレシピ通りの分量で味付けをしてしまうと、万が一濃くなってしまったらもうどうにもならなくなります。これを写真に例えると、Nikonで言うVIVIDや風景モードなどに設定して撮ることはまずありません。元データの情報量は多ければ多いほうがいいので、撮るときにはヒストグラム見て、白トビや黒つぶれがないか、シビアにチェックし、幅を利かせた現像が出来るように撮影の時点で作品の仕上がりまでイメージしています。そして最後のチェックの時にも繊細な部分の微調整ができるような撮影法が、美しい作品に仕上がる極意だと思っています。そのためにも、僕にとってフィルターワークは不可欠なのです。

これからも、僕はこのスタイルで撮り続けていきますが、例えばナショナルジオグラフィックといった海外の写真サイトにもチャレンジしたいし、知床の撮影もリベンジしたいです。絶景と撃沈は紙一重ですが、いつか必ず撮れると思っています。そのためにも僕は通い続け、撮り続けます。

木全雅裕 Masahiro Kimata

田舎の景色が大好きだった小学生のころから、子供でも簡単に撮れるコンパクトカメラで写真を撮るのが好きでした。
大人になってからは旅行のためにずーっとコンデジを買い続けてましたが、2014年7月に憧れの知床へ行く機会が出来て、綺麗な写真を撮って来たいと思い一眼レフ入門機を購入。
しかし、その時、思うような写真がとれなかったことがどうしても納得出来なくて、いろいろ調べ、思い切ってFX機(フルサイズ)に買い替え、レンズも単焦点などを買いそろえる。

主な活動拠点は長野県、山梨県、静岡県。
「富士山を撮っている」とよく言われますが、名古屋から車中泊や日帰りで行ける範囲内で、国内の絶景を追い求めている中、富士山に辿り着くことが多いです。
その他、北海道へ年1~2回、新潟県や、今後は東北や山陰へも撮影エリアを拡張する予定。

コンテスト等受賞歴

    • ニッコール63準特選 65入選
    • 2016年 タムロン金賞
    • 2017年 バンガード賞
    • 第64回全国展入賞
    • 東京カメラ部IG部門全開催入選
    • 富士フィルム56th優秀賞
    • パシャデリックグローバル2018 世界の30選 他

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