写真家 山本高裕さんに訊く

2008年頃から東京の写真をSNSで発信しはじめて、国内外で300万人以上のフォロワーを獲得。その後、個展の開催、写真サークルの主催、電子写真雑誌の編集・発行など、活躍のフィールドを広げている写真家/編集者の山本高裕さん。近作の個展では、NDフィルターで “肉眼では見えないタイムラインを捉える” をテーマにした海の作品を発表。今回は、その作品を題材に、撮影時のエピソード、テーマの深め方、フィルターや写真に対する考え方についてうかがいました。

タイトル:サーファーの海
撮影データ:Nikon D810, SIGMA 14mm f/1.8 DG HSM, F9, 60秒, ISO64
フィルター:NiSi ND 8, ND 1000

全ての撮影の中で一番の豪雨だった。さらにときどき高い波が来るものだから、上から下からずぶ濡れになった。ちなみにこの場所は、2020年の東京オリンピックでサーフィンの会場になるとのこと。三脚を担いでいるのは僕一人で、大雨だというのに無数のサーファーたちが波に乗っていた。極めてアウェーな状況の中だったが、夏の大粒の雨は気持ちがよかった。

コンデジで東京を撮って、SNSで世界に発信

—-はじめに、写真との出会いから、写真家として作品を発表するに至るまでの経緯を教えてください。

小学生のとき、父からもらったフィルムの一眼レフカメラを通じて写真を知るようになりました。遊びで撮っていた程度ですけれど。ちょうどスーパーカーブームだったので、外車の写真を撮ったり、星が好きだったので、見よう見まねで長時間露光で星を撮ってみたり。
写真が好きだったので、高校教師をしていたころに美術の先生に暗室作業を教えてもらい、学んだ内容を生徒に教えたりもしていました。
真面目に撮り始めたのは編集の仕事をするようになってからです。取材に出るときにカメラマンとして取材写真を撮ったり、取材対象者のポートレートを撮ったりしていました。
個人的に写真にはまったのは、2008年頃です。毎日ポケットに入れて持ち歩けないといやなので、コンデジを買いました。SNSに写真を投稿するようになったのもこの頃ですが、コンデジを使っていかに一眼レフとは違う写真、一眼レフでは撮れない写真を撮るかということを考えていました。

—–コンデジだから撮れるというのは、どういう写真ですか?

コンデジは小さいから、例えばアジサイを撮るときに、花の裏にカメラを突っ込んで撮れるんです。大きな一眼レフカメラだと焦点距離も長いし、マクロレンズをつけても下から撮れる大きさじゃない。同じように、ススキを撮るときには、ススキの枝分かれした中から撮ったり、コンデジだからこその視点が見つけられた。今まであまり見たことがないような写真だったみたいで、SNSでの受けはよかったですね。

—–その結果、Google Plusでフォロワーが300万人というすごいことになったわけですね?

Google Plusでは首都高の夜景写真を主に投稿していました。それの光景が海外の人たちには珍しかったんだと思います。運良くフォロワーも増えました。その流れでGoogle Plusの1周年のときに、記念イベントを主催したんです。それでGoogleの人に認知され、また、フォロワーが多いことから、写真関係のいろいろな方々からお声掛けいただくようになりました。

——3人でグループ展を開催したのもこの頃ですね?

2013年の夏、京橋のアイランドギャラリーのオーナーに声をかけていただいて、GooglePlusで作品を発表していた3人でグループ展を開催することになりました。僕は「東京を撮って世界に発信するんだ」と考えてインターネットで発表していたので、写真をプリントして、東京のギャラリーに展示するなんて考えたこともなかったんです。でも、そういう場所で自分が何ができるのかという興味もあったので、挑戦させてもらいました。

タイトル:乱雲
撮影データ:Nikon D810, SIGMA 20mm f/1.4 DG HSM, F5.6, 70秒, ISO160
フィルター:NiSi ND 8, ND 1000

実はほかの場所に向かっていた。その途中で江川海岸という文字が目に入り、立ち寄った。多くの人が写真に収めている光景を確認するだけのつもりだった。空の具合を見ると、夕暮れごろにいい感じになりそうだった。本来の目的地に行くことはやめにした。しばらくすると、西の空が黄金色に変わり、風で乱れる雲の底が赤く照らし出された。背後には虹が出るというボーナスもあったが、それは記憶の中にしまってある。

東京を離れ、海へ

—–写真をはじめた頃は東京がテーマでしたが、今回選んでいただいた写真は、海がテーマになっています。撮影テーマはどのように変わってきたのでしょうか?

東京の街並みを撮り始めたのは、日々の散歩の延長ということもありますが、生まれてからずっと住んでいる街だから、ということも大きいです。また、SNSなどで発信していくにあたり、東京のような都市風景は世界でも珍しいので、ちょうどよかったということもあります。
SNSをはじめた当初に首都高の写真を取り続けたのも、そういう建築が世界に少なく、自分をニッチな立ち位置にすることができたからです。

—–今回は、なぜその東京を離れて海へと向かったのですか?

僕は、東京を撮るなら他の人が見たことがない東京を撮りたいんです。でも、それまで人が撮っていないような東京の風景を発表すると、その場所をみんなが撮りに行くようになって。そうなると、僕自身が撮りに行きたい場所が次第になくなってくる。
だから、ひとつ前の個展で東京の夜景テーマにしたときも、星の流れと夜明けの光を組み合わせてみたり、それまでとは違う試みもやってみました。でも、それ以外に人と違う東京の表現方法があるのかと考えたときに、一度リセットしてみたかったんです。
海辺に行ったのは、都会の喧騒や人混みが一切ないところに出てみて、どんな新しい世界が見えるのかを確認してみたかった。そして、その際にはNDフィルターにも大いに活躍してもらいました。

—–どういう場面でNDフィルターを使用したのでしょうか?

僕の場合は、夕方の明るい部分から暗い部分までうまくならすために、というような、一般的なNDフィルターの使い方にはあまり興味がなかった。そうではなくて、時間をコントロールして、昼間に夜と同じタイムライン、肉眼では見えないタイムラインを捉えることができるというのが、NDを使った理由です。シャッタースピードを上げることはできるんだけど、落とすことはNDフィルターがないとできない。そこがおもしろくてはまっていったんです。
ここで紹介させていただいたような構図で撮ったのは、何もないところで、見る人が写真と対話して、そこに自分が思ったものを重ねることで完成する画というのがあってもいいんじゃないか、というところからはじまったこころみです。

—— 撮影された写真は、ほとんどが水平線ですね?

地上の先端、岬や海岸とか、その先の何もない世界を真っ直ぐに見る、というルールで撮りました。そして、一期一会。初対面で見た表情を撮り続け、一度行った場所にはプロジェクト中に再訪しない。そんな変なルールではじめたので、半年もせず辛くなりましたが、なんとか1年持ちこたえました(笑)。時間帯も、あまり狙わないで行く。こういう画がとれたらと狙うことで、フラッシーな写真を狙うことになってしまうのがいやだったんです。

——-そして個展「空と海と僕と・・・」(2017年)で作品を発表されたわけですが、これまでの作品とは異なる写真に対して、以前から山本さんの写真を見てきた方の反応はどうだったのですか?

反応は様々でした。僕の写真は東京の夜景や星空が多かったので、青のイメージが強かったようです。それとは全然違うので、戸惑った人もいれば、「じわじわ楽しめる」と言ってくれた人もいた。ずっと眺めていると、その時の気分で見えてくるものが違うような写真が撮りたかったんです。「じっと見てられる」とか、「いつまでも見てられる」という反応をもらえたのはとてもよかったですね。

タイトル:夏の匂い
撮影データ:Nikon D810, SIGMA 20mm f/1.4 DG HSM, F11, 270秒, ISO64
フィルター:NiSi ND 8, ND 1000(150*150), Nano IR ハーフND ソフトグラデーションフィルター ND 8(150*170)

夏の砂浜は海の家が立ち並び、人があふれ、あちこちから夏を感じさせるさまざまな匂いが漂ってきていた。僕はというと、海の家に用はなく、夏の憩いに背を向けたまま海の先を見つめていた。こんなことをしていなければ、ビールの一杯飲みながら過ごしたい夕暮れ時だった。

プリントをゴールにしたとき、写真に対する考え方が変わった

—–フィルターを使ったりする撮影時の画作りと、撮影後の画像処理による画作りがありますが、その切り分けはどのように考えていますか?

補正に関しては、フィルムの現像でできるレベルだったらありかな、というのが漠然とした基準でしょうか。「覆い焼き」や「焼き込み」とか、そういうレベルであればいいんじゃないかと思います。ただ、僕もHDRもやったし、フィルターで色を変えてみたり、一通りのことは試したことはあるので、撮影後の補正や加工を否定はしません。
最近は、仕事でポートレイトも撮ったりしますけれど、撮るときに被写体と全力で向き合った方が楽しいなと思っています。デジタルであっても色温度など、全部撮るときに設定しますし、撮影後、何もしないで完成していれば最高だと思っています。ただ、撮影後、追い込むときに、海の暗いところを持ち上げた方がいいよねとか、そういうレベルの調整はやりますね。

—–写真を見る方も、あまり作り込まれていると違和感を感じることも・・・。

でも、作り込んだほうが受けるんですよね、InstagramなどのSNSでは。僕も以前はやっていました。ただ、展示のためにプリントをするようになって、僕の中でその辺のへのアプローチが変わった気がします。補正しすぎた写真は画面ではきれいに見えるのに、プリントでは階調が破綻していたりする。プリントしたときにどうかと考えたときには、撮るときにちゃんと撮って、撮った後にはつくりすぎないというのがよいと思います。

タイトル:東京遠景
撮影データ:Nikon D810, AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED, F7.1, 30秒, ISO100
フィルター:NiSi ND 1000(150*150)

堤防に据え付けられた階段を降り、海辺に出た。ちょうど満潮の時間で、遠浅の海岸は狭い砂浜を残して海になっていた。砂浜をアクアラインの方に進むと、狭い岸はさらに狭まくなり、いよいよ波が堤防に直接打ち寄せる所まで来た。自分の足元に打ち寄せる波に不安を感じながら、シャッターを切った。夕暮れの富士。2016年最後の明かりが灯り始めた東京遠景。

ことばが写真を考えるきっかけを与えてくれることもある

—– 個展の際には、各写真のタイトルに加えて、説明文をつけていますよね? 写真を説明することばをどう考えていますか?

はじめてギャラリーに展示する時に、タイトルもつけたくなかったし、コメントもつけたくなかったんです。しかし、「見に来る人にはストーリーが大事だから、コメントというのは大事だよ」とギャラリーの方に言われてつけました。そしていざ展示してみると、読まない人は読まないけれど、コメントに引っかかって、その写真に留まる人も結構いたんですね。
SNSもそうですけど、写真だけに反応する人と、コメントで反応する人がいて、写真だけを見てほしいという気持ちはあるけれど、コミュニケーションの方法として、その場に来たひとが違う楽しみ方をしてくれるのであればと、詩をつけたり、撮った状況説明したり、いろいろやってみています。

——たとえば今回の海の写真などでも、どう見たらよいか、戸惑う人もいると思います。そんなときに言葉があれば、見るときの助けにはなりますね。

ただ、写真の見方というのは人それぞれ自由でよいので、写真を見て、色々考えてくれたらいいなと思っています。僕の写真がアートかといわれれば、僕は記録です、と答えますけれど、写真にアートの側面があるとしたら、見る人が何だろうと考えるとこからはじまるのがアートじゃないかと思っています。あまりにわかりやすい風景写真だと「あ、きれいだね」で終わってしまうじゃないですか。僕はそういうのには興味がなくて、きれいじゃないかもしれないけれど、見てくれた人が何かを考えてくれることが、ひとつのスタートではないかと考えています。

※このページの4点の写真のキャプションは、すべて個展時に表示されていた文章です。

ポストSNSの発信方法を探って

—– 今後の活動予定について教えてください。

ここ最近は首都高を撮ったり、銀座を撮ったり、東京を自分ならではの視点で切り取る方法を改めて考えています。銀座には通い続けているので、プリントして発表することを目標にしたいと思っています。
SNSのおかげで国内に多くの写真家の知り合いができたこともあり、そういった仲間たちとともに、ひとりではできない何かを考えることも多いです。自分が編集者ということもあるのだと思いますが、グループ展を主催したり、電子雑誌「Tokyo Photography Magazine」を作ってみたり。大々的にではないですが、電子雑誌はSNSの次の発信方法を探る意味で作ってみました。こちらは2018年7月に第2号を出す予定です。

山本高裕 Takahiro Yamamoto

東京生まれ。父親のペンタックス製一眼レフカメラを譲り受け、すぐに写真に魅了される。英語教師として公立高校に9年勤めた後、出版社の編集者として仕事を始める。現在は編集・写真の仕事を並行してこなしている。これまで、写真サイト「Fuel Your Photography」のライター、カメラバッグメーカーf-stopのStaff Proメンバー、PHOTOMENTARY by Nikonのアンバサダーを務めるなどしてきた。2018年、電子写真雑誌「Tokyo Photography Magazine」を自主発行。写真愛好家グループ「東京夜間写真部」主宰。

個展:
東京未来都市(Island Gallery、東京、2014)
Bright Lights ―街灯り、星明かり―(Island Gallery、東京、2015)
Time Flows (Island Gallery、東京、2016)
空と海と僕と・・・(Island Gallery、東京、2017)

グループ展:
Google+ 三人写真展(Island Gallery、東京、2013)
東京二十五夜物語(Island Gallery、東京、2014)
東京25区(Island Gallery、東京、2015)
JPCO Gallery Spring 2015(サブウェイギャラリーM、横浜、2015)
JPCO Gallery in Kyoto / 蒼の世界、世界の蒼(ヤマモトギャラリー、京都、2015)
PHOTOGRAPHY NOW(The Brick Lane Gallery、ロンドン、2015)
PHOTOMENTARY 写真展(EIZOガレリア銀座、2015)
2016 Island Gallery Ten Colors(Island Gallery、東京、2016)
JPCO Gallery 2016(アートスクエア、ヒルトン東京、東京、2016)
2017 Ten Colors 写真展(Island Gallery、東京、2017)
首都高開通55周年記念「芸術作品に見る首都高展」(O美術館、東京、2017)
東京夜間写真部グループ展2018「night view emotion」(アメリカ橋ギャラリー、東京、2018)

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電子写真雑誌: Tokyo Photography Magazine